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神戸地方裁判所 平成3年(ワ)1032号 判決 1993年1月22日

原告 田中譲璽

同 田中美穂

右両名訴訟代理人弁護士 小林廣夫

被告 株式会社サンアンドサン関西

右代表者代表取締役 清水善昭

右訴訟代理人弁護士 塚口正男

同 阪井基二

同 田渕謙二

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ金六万二〇〇〇円及びこれに対する平成三年七月一三日から右各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その七を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告らに対し、それぞれ五一万二〇〇〇円及び(弁護士費用相当分を除いた)内金四一万二〇〇〇円に対する平成三年七月一三日(訴状送達の日の翌日)から右各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告らが被告の主催する海外旅行に新婚旅行として参加したところ、旅行先での宿泊施設の種類が当初の契約内容とは異なってホテルからコンドミニアムに変わっていたため、せっかくの新婚旅行が台なしになってしまったとして、被告に対し、債務不履行を理由として慰謝料等の支払を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  原告らは、平成三年一月一三日に結婚式を挙げ、同年四月一二日に婚姻の届出をした夫婦である(原告田中譲璽本人)。

2  被告は、旅行業を営む株式会社であって、大手の旅行業者である日本交通公社(以下「JTB」という。)の系列会社(以下、JTBの系列会社全体を「JTBグループ」という。)である(争いがない)。

3  原告らは、婚約中の平成二年一〇月四日、旅行代理店である株式会社神港ツーリスト(以下「神港ツーリスト」という。)を通じ、被告との間で、被告が主催する、カナダのウィスラーとバンクーバーでのスキー及び観光等を目的とする平成三年一月一四日から同月二二日まで九日間の「ルック、スキー、ウィスラーとバンクーバー9」の旅行契約(以下「本件旅行契約」といい、同契約に基づく旅行を「本件旅行」という。)を締結した(争いがない)。

本件旅行契約において、ウィスラーでの宿泊先に関して被告が原告らに対して負担すべき債務の内容は、次のとおりであった((一)については争いがなく、(二)については<書証番号略>)。

(一) ウィスラーで五泊する。

(二) 右宿泊先は、「シャトーウィスラー」もしくは「デルタマウンテンイン」又はそれらと同等クラスの他のホテルとする。

4  本件旅行契約締結後の平成三年一月七日原告らは、神港ツーリストを通じて被告から本件旅行の日程表(以下「本件日程表」という。)の交付を受けたが、同日程表には、ウィスラーにおける宿泊先として、宿泊ホテル名欄に、「グレイストーン」と記載されていた(争いがない)。

5  原告らは、本件日程表に従って、同月一四日に本件旅行に出発し、ウィスラーでグレイストーンロッジ(以下「グレイストーン」という。)に五泊し、バンクーバーに移動した後、同月二二日に帰国した(争いがない)。

6  ところが、右グレイストーンはいわゆるコンドミニアムであって、自炊を前提とする宿泊施設であったため、施設内にレストランや喫茶の設備がなく、調理のための材料等をすべて宿泊者において調達しなければならなかった上、ボーイによる荷物の移動やルームサービス、モーニングコール等のサービスもなかった。従って、グレイストーンは、宿泊客においてホテルと同様のサービスを受けられる宿泊施設ではなかった(喫茶の設備がないことについては弁論の全趣旨、その余は争いがない)。

7  原告らは、被告に対し、本件旅行契約に基づく代金として、それぞれ三六万五〇〇〇円を支払ったが、前記のとおりウィスラーでの宿泊施設がホテルからコンドミニアムであるグレイストーンに変更されたことにより、右宿泊に要する費用が一人一泊当たり二四〇〇円ずつ減少した。

本件旅行契約に適用される旅行業約款によれば、旅行内容が変更されたことによって旅行の実施に要する費用が減少したときは、右減少分だけ旅行代金額を減額すべきものとされている(争いがない)。

よって、被告は、原告らに対し、減少した費用の五泊分相当の金員として、それぞれ一万二〇〇〇円ずつを返還すべき義務がある。

三  争点

本件における争点は、被告が最終的にウィスラーにおいて原告らのためにホテルを確保することができず、宿泊施設をコンドミニアムに変更したことが被告の債務不履行になるか否か、債務不履行になるとした場合、それが被告の責に帰すべからざる事由によるものといえるか否か、右宿泊施設の種類の変更につき、被告に原告らに対する事前の通知・説明義務懈怠があるか否かという点にある。

第三  争点に対する判断

一  まず、被告が宿泊施設として原告らのためにホテルを確保することができず、コンドミニアムに変更したことが債務不履行を構成するか否かという点について判断する。

1  前記争いのない事実等6の事実及び証拠(証人奥田康幸)によれば、そもそもホテルとコンドミニアムとでは、施設内のレストラン等の有無、ルームサービスの有無、ポーターの有無等の点で宿泊客の受けるサービス内容に基本的かつ重要な相違があり、従って、宿泊施設としての種類は明らかに異なるといわざるをえないから、被告がウィスラーでの原告らの宿泊施設の種類をホテルからコンドミニアムに変更したことは、本件旅行契約の内容の重要部分を変更したことになるというべきである。

この点に関し、被告は、グレイストーンはコンドミニアムではあるが、現地のホテルが有しないような利点もあり、総合的に評価してホテルと同等の宿泊施設であるから、本件旅行契約の内容の変更には当たらないと主張するが、ホテルとコンドミニアムとでは宿泊客の受けるサービス内容に基本的かつ重要な相違があることは前記説示のとおりである上、被告自身、本件旅行とほぼ同一内容の日程(但し、旅行期間は七日間)のスキー旅行について宿泊施設をコンドミニアムとするものを全く別の商品として販売している(<書証番号略>)ことに鑑みると、被告の右主張を採用することはできない。

2  次に、被告は、本件旅行契約についての右内容の変更につき、原告らから予め明示又は黙示の承諾を得ていたと主張するところ、第二の二4の事実及び証拠(<書証番号略>、証人中田定之及び原告田中譲璽本人)によれば、原告らは、本件旅行出発の約一週間前に本件日程表の交付を受けたことによりウィスラーでの宿泊先がグレイストーンに変更されたことを知り、神港ツーリストにその点を問い合わせたところ、グレイストーンがデラックスタイプのコンドミニアムであって、台所や洗濯の設備もある旨の説明を受けたことが認められるが、他方、証拠(<書証番号略>、証人中田定之、原告田中譲璽本人及び弁論の全趣旨)によれば、前記日程表にはウィスラーでの食事については「朝食:ホテル」と記載されている上、右説明に当たった神港ツーリストの担当者中田定之(以下「中田」という。)は、単に宿泊場所がグレイストーンに決まったとしか考えておらず、宿泊施設の種類が変更になったとの認識を有していなかったため、コンドミニアムについての詳細な説明は一切せず、「朝食付のコースなのでレストランくらいはあるでしょう。」と回答するに止まっていたため、コンドミニアムの正確な意味を理解していなかった原告田中譲璽(以下「原告譲璽」という。)としては、グレイストーンをホテルと同様の宿泊施設と理解して、事前には特段の異議を述べることなく本件旅行に出発したことが認められるのであって、右認定の事実を総合すると、ホテルからコンドミニアムへの宿泊施設の種類の変更につき、原告らが事前の承諾を与えていたと解することはできず、他に右承諾の事実を認めるのに足りる証拠はない。

3  そうすると、被告は、原告らに対し、本件旅行契約に基づく債務の本旨に従った履行をしなかった(不完全履行)という外はない。

二  「責に帰すべからざる事由」の有無について

1  被告は、ウィスラーで原告らのためにホテルを確保できなかったのは、当地でフリースタイルスキーのワールドカップ大会が開催されたのに伴い、ホテル側が当初の予定より多くの部屋を同大会関係者に提供することとしたため結果的にオーバーブッキングになったからであって、右債務不履行は被告の管理できない事由によるものであるから、被告の責に帰し得ないと主張する。

2  そこで検討するに、証拠(<書証番号略>、証人奥田康幸及び弁論の全趣旨)によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) JTBグループに属する被告ら各会社は、ウィスラー地区におけるホテルの予約をJTBバンクーバー支店(以下「バンクーバー支店」という。)を通じて一括して行い、同支店が、同地区への旅行を企画するJTBグループ各社に予約したホテルを割り振るという形を取っていた。

(二) 被告は、バンクーバー支店を通じてウィスラー地区におけるデラックスタイプのホテルを常時一〇室程度確保し、それを前提に当地への旅行を主催・募集し、旅行参加者の受付も右客室確保数の枠内で行っていた。そして被告は、一週間ごとに約四〇日先の必要客室数をバンクーバー支店に報告し、その一週間後に同支店から右確保の有無の回答を受けるという手順を踏んでいた。

(三) 被告は、本件旅行の主催・募集に当たっても右(二)のとおりの手順を踏み、本件旅行の予定期間中シャトーウィスラー又はデルタマウンテンインのいずれかに一〇室を確保していたが、平成二年一二月一三日、バンクーバー支店から、ホテル側のオーバーブッキングのために必要な客室数の予約が取れなくなった旨の回答があった。そこで被告は、同支店に対し、予定どおりシャトーウィスラー又はデルタマウンテンインを必要な部屋数(七室)だけ確保するべく現地のホテル側と再交渉するよう申し入れたが、本件旅行とほぼ同時期に当地で開催されるフリースタイルスキーのワールドカップ大会の関係者のために、ホテル側が当初の予定よりも相当多くの部屋を提供することにしたため、予め各旅行会社に割り当てられていた客室が回収され、その結果いわゆるオーバーブッキングになったもので、結果的に本件旅行に必要な七室のうち三室しか確保することができなくなってしまった。そして、ウィスラーにはシャトーウィスラー又はデルタマウンテンインと同等クラスの他のホテルがなかったため、デラックスタイプのコンドミニアムであるグレイストーンを四室確保することになった。

(四) 右ワールドカップ大会が開催されることはホテル側でも事前に分かっていたはずのことであるだけに、被告としては、いったん予約の割当てを受けていた客室がホテル側の一方的な都合で急遽キャンセルされるという事態は全く想定していなかった。

3  以上に認定した事実によれば、本件において、被告が原告らのためにホテルを確保し得なかったのは、ホテル側の一方的な事情によるものであって、いったん割り当てられていた部屋がホテル側の都合で一方的にキャンセルされ、大会関係者に提供されるなどということは通常予想し得ない事柄に属するというべきである上、被告ら旅行業者としても、そのような事態にまで備えて、予め多い目に客室の予約を取っておくなどというような措置は、営業政策上も取り得ないものと考えられるから、結局、かかる点については、被告の責に帰し得ないというべきである。

三  宿泊施設の種類の変更についての通知・説明義務の懈怠について

1  本件旅行契約に適用される被告の旅行業約款一一条によれば、被告の管理できない事由により契約内容を変更する場合には、旅行者に対して事前にその理由を説明すべき義務が被告に課されているところ、同約款一四条二項二号によれば、右変更がなされた場合(但し、その変更が重要なものであることを要する。)には、旅行者は旅行契約を解除することができるものとされており(<書証番号略>)、本件においては、宿泊施設の種類の変更は前記のとおり契約の重要な内容の変更に当たるというべきであるから、原告らは本件旅行契約を事前に解除することができたものである。そこで、以下、右解除権の行使をなし得る前提となる通知・説明義務の懈怠の有無について以下検討する。

2  証拠(<書証番号略>、証人中田定之、同奥田康幸、原告田中譲璽本人)によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 被告は、バンクーバー支店からオーバーブッキングの通知を受けた平成二年一二月一三日の時点では、原告らに対して宿泊施設変更の通知・説明はしなかった。これは、前記二2(三)のとおり、被告としては、右通知を受けて即座に同支店にクレームを申し立て、予定のホテルを確保するように努めていたためであった。

(二) 旅行者の一部(四組八名)について宿泊施設をホテルからコンドミニアムに変更せざるを得ないことが確定的になったのは同月二四日ころのことであったが、被告は、右時点でも原告ら旅行者に対してはその旨の通知・説明をせずただ、旅行代理店である神港ツーリストに対して、同月二五日、「ホテル回答」という表題の下に、本件旅行におけるウィスラーでの宿泊先がデラックスなコンドミニアムであるグレイストーンに決まった旨を、JTB三ノ宮支店を通じてファックスで送信したに止まった。右連絡文は、宿泊先が単に決定した旨の通知の体裁しか有しておらず、宿泊施設の種類が変更したことを旅行者に通知・説明すべき旨を神港ツーリスト側に注意する記載もなかった。加えて、その点について事後に、被告から神港ツーリストの担当者宛てに連絡をとって注意を促すということもしなかった。これは、被告において、右変更が旅行契約の内容の重要な変更に当たるという認識を欠いていたことによるものであったが、その結果、神港ツーリストの側でも、原告らに対して通知・説明を要するような宿泊施設の種類の変更はないものと理解し、右ファックス受信後も、宿泊施設がコンドミニアムに変更になった点について、積極的に原告らに通知・説明を行うということはしなかった。

(三) 原告らは、本件旅行出発の一週間前に受け取った本件日程表の宿泊ホテル名欄に、それまで聞いていなかった名前が記載されていたことから不安になり、グレイストーンの設備について確認するため、その翌日、原告譲璽において神港ツーリストに連絡した。右問合せを受けた中田は、この点をJTB三ノ宮支店に問い合わせ、同支店から送信を受けたグレイストーンの設備に関するファックスによる送信文書の一部を原告譲璽宛て送信した。

(四) かくして原告譲璽が受け取った右文書には、グレイストーンがコンドミニアムであるとの記載に加え、「ランドリー設備あり」「キッチン付き」などと一応はホテルでないことを窺わせる記載があったものの、原告らは、コンドミニアムが宿泊施設の種類としてホテルとは異なるということを正確に理解していなかったことから、とりあえず原告らにとって最も重要な意味を有するレストラン設備の有無について確かめるべく、その後、再度中田に連絡をとって、かかる点を尋ねた。中田は、これに正確に回答するため、JTB三ノ宮支店に照会するなどしたが、結局グレイストーンにレストラン設備があるか否かについては判然としなかったものの、本件日程表の記載を普通に読む限り、グレイストーン内で少なくとも朝食は摂れるものと理解し得るものであったこともあり、また、コンドミニアムの設備に対する中田自身の若干の誤解もあって、「朝食付のコースなのでレストランくらいはあるでしょう。」と、原告譲璽に対し返答した。そのため、原告譲璽としては、変更になった宿泊先が少なくともレストラン設備があるという点ではホテルと同様のサービスを受けられるものであると理解し、そうであれば自炊の必要はなく、とりあえず自分たちの要望には沿い得る施設であると考え、中田に対して特にそれ以上質問をして宿泊施設の設備やサービス内容を詳細に確かめることをしなかった。

3  以上に認定した事実によれば、被告は、宿泊施設の種類がホテルからコンドミニアムに変更になったことについては、自らも、また、その履行補助者である神港ツーリストを通じても十分に説明を尽くしたとはいえず、その結果、原告らに被告の旅行業約款に基づいて本件旅行契約を解除することを検討する機会を与えなかったものであるから、結局本件旅行契約に基づく債務の本旨に従った履行をしなかったと認めるのが相当である。

4  そうすると、被告は、原告らに対し、本件旅行契約に基づいて被告が負担する債務の不完全履行により、原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

四  損害額について(請求額・各原告につき慰謝料四〇万円、弁護士費用一〇万円)

1  原告譲璽は、本件旅行において原告らが被った精神的苦痛は、主に以下の点にあった旨供述するところ、右は相当なものとして一応これを肯認することができる。

(一) 原告らは、新婚旅行として本件旅行に参加したものであるから、宿泊先にレストランの設備がなく、自炊を余儀なくされるということについて事前に正確に知らされていれば、本件旅行契約を解除して新たに別の旅行契約を締結するなどして自分達の満足のいく旅行ができるように対処し得たはずであるだけに、本件旅行について後悔が大きかった。

(二) 本件旅行では、現地に到着して初めて、宿泊先が設備及びサービスの点でホテルとは種類の異なる施設であるということが分かり、原告らは自分達の期待が裏切られたことで、大いに戸惑った。とりわけ、スキーコーディネーターのところに集合する時間との関係で朝食を摂る時間的余裕がなく、夕食もレストラン等の設備のあるウィスラービレッジまで行くのが面倒であったこともあり、ほとんど買い溜めのパンやハムを小出しにして済ませるなど、食事の面で大いに不自由した。そのため、旅行の間中夫婦間で口論が絶えず、せっかくの新婚旅行の雰囲気が害された。

2  しかしながら、他方、原告らの被った損害額を算定するに当たっては、以下のような事情も斟酌すべきである。

(一) 前記認定のとおり、本件における被告の落度は、宿泊施設の種類の変更について早急かつ適切に原告らに通知・説明して、原告らに本件旅行契約を解除するか否かを検討する機会を与えなかったという点に存するものであるところ、被告としては、右変更につき、本件旅行出発の約一週間前に、神港ツーリストを通じて、宿泊施設がコンドミニアムになったことを一応通知しており、ただ、原告らの知識不足並びに履行補助者側の誤解及び説明不足もあって、原告らがホテルと同様の宿泊施設であると誤解してしまったものである。

(二) シャトーウィスラーないしデルタマウンテンインとグレイストーンとでは、宿泊施設の種類こそ異なるものの、グレイストーンは比較的新しく、豪華なタイプのコンドミニアムであって、外観上、内装とも、一般的なホテルと比較しても遜色がないものといえる(<書証番号略>、証人奥田康幸)。

(三) 食事に関しては、グレイストーンから徒歩で約一〇分ほどのところにシャトーウィスラーホテルがあり、同ホテルにはレストラン設備があって同所で食事をすることができたし、また、レストラン等が多くあるウィスラービレッジまでは、グレイストーンから徒歩で約二〇分ほどであって、グレイストーンからウィスラービレッジまでは三〇分ごとに無料のシャトルバスが出ており、また、タクシーを利用することも可能であったから、仮に原告らが主張するように道路の除雪が十分でないことなどのため通常よりも歩行に手間取るという事情が認められたとしても、そもそも食事に出掛けることが一概に困難といえるほどのものではなかった。また、スキーコーディネーターのところに集合する時間との関係で朝食が摂りにくかったという点についても、ミールクーポンを利用して朝食を摂ることができたシャトーウィスラーホテルは、グレイストーンから右集合場所に至る途中にあり、集合時間も午前八時半ないし九時であったというのである上、スキー靴を履いたまま同ホテル内に入っていくことに特段の支障があったとも認められないことからすれば、原告らにおいて就寝を早くし、翌日余裕をもって起床するなどすることにより十分対処し得たものと認められる(<書証番号略>、証人奥田康幸、原告田中譲璽本人)。

(四) 被告は、本件旅行を一般のスキー旅行として主催・募集したものであって、特に新婚旅行用として企画したものではなく、そのため、旅行費用も一人当たり三六万五〇〇〇円であった(<書証番号略>、証人奥田康幸)。

(五) 本件旅行でウィスラーでの宿泊施設がコンドミニアムに変更になった旅行者は原告らを含めて四組八名であったところ、原告以外の他の六名からは右変更に伴う特段の苦情の申入れはない(証人奥田康幸)。

3  以上の事実を総合考慮すると、原告らが本件において被った精神的苦痛を慰謝するには、それぞれに対して五万円を賠償させることをもって相当であるというべきである。

4  なお、原告らは、被告に対して本件の損害賠償を求めるのに弁護士を依頼したことにより、各一〇万円の出費を余儀なくされたとして、その賠償を求める。

しかしながら、本件では、原告ら代理人弁護士からの書面による苦情申入れに対する最初の回答の段階から、被告の側でも相応に自らの過失を認め、原告らに対し、それぞれ五万五〇〇〇円を迷惑料として支払う旨を申し入れ、また、宿泊料金の差額分合計各一万二〇〇〇円についても右時点から返還する旨申し入れていた(<書証番号略>)ものである。以上の経緯に鑑みると本件においては、弁護士費用は被告の債務不履行と相当因果関係のある損害であるということはできず、結局、弁護士費用に関する請求は理由がない。

五  よって、原告らの請求は、債務不履行に基づく慰謝料として各五万円の、被告の旅行業約款に基づく宿泊費用差額分の返還として各一万二〇〇〇円の各支払を求める限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。

(裁判官 奥田正昭)

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